2008年11月4日火曜日

死は雨のようなものだ。万物の上に平等に降り注ぐ。

朝、庭のほうで引きつったような息交じりの叫び声を聞きました。
小人のような、(つまり不自然な高さの)その声は、小さな叫び声で「こわいよ~」と言っているようです。
洗面所にいる私のもとへ『こわいよ~』は走ってきました。


母でした。
母はそのまま五体倒地しキッチンの床にへばりついて「こわいよ~」と泣き始めました。あの声のまま。
私は戸惑い、その背や髪を撫でながらわけを聞きましたが、よほど怖かったのか壊れたおもちゃのように「こわいよ~」を繰り返すだけでした。
普段から飄々として気丈、無人島では家族のだれよりも長く生きるであろう母がです。


とにかくそういった状態の彼女を辛抱強く宥めているうちに、私は大体の予想がついてきました。



(鳥だ。)



鳥か、はたまた鳥か、、、、


それか鳥だ。


母は自他共に認める大の鳥嫌いです。
鳩や鶏はおろか、雀も水鳥も文鳥もだめ、鶏肉も一切口にしません。(おかげで私達姉妹は鶏肉の食わず嫌いです。唯一私は克服しましたが)


小人のような声を絞り出して、ようやっと出た答えは
果たして鳥でした。

物干し竿の下に雀が死んでいたそうなのです。

私とて普段なら死体の処理なぞ出来るタマではないのですが、背後を見れば母親が全身で床にへばりついているわけで・・・・
もう庭にはでられないと泣くわけで・・・・
火事場の何とやらでございます。


ゴミ捨て場から帰ってきたとき、母は場所を変え、玄関にへばりついていました。
私をお迎えしてくれたようで
お金あげる・・・、と言って二千円をくれました。
鳩なら五千円。カラスなら八千円、ワシもしくはタカだであったら二万くれるとつぶやきました。
私は、ワシもしくはタカであったら業者を呼ぶよ、と返しました。

腰から力を抜かし、その後もズルズルと青い顔で動いていた母が
幾分回復したらしいとわかったのは 「あなたの人生のなかで最もGreatな仕事だったわ」「あなたを産んで本当によかった」と無駄口をききはじめたからです。

その言葉を背に玄関のドアを閉めました。


結局授業には一時間遅刻しましたが、もし少しでも時間がずれて、私が出掛けた後に母が雀とご対面をはたしていたら・・・
彼女は一日を床に四肢をなげだして過ごしていたことでしょう。
そうして帰宅した父が、真っ暗な家のなかでその状態の妻を発見するのです。


よかった、ほんとうによかった・・・・




“私の人生のなかで最もGreatな”二千円は、一時間後の飲み会代に消えようとしています。


















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